シリーズ:コンケン大学教育学部日本語教育専攻の挑戦 −2.カリキュラム−
1999年の「国家教育法」制定に端を発するタイにおける一連の教育改革。その中核が「学びの改革(learning reform: パティループ・ガーンリアンルー)」です。「学びの改革」と聞いてもピンと来ないかもしれません。同法では「全ての学習者が最も大切であると見做され」(22条)、「個人の違いを認めた学習者の関心、適性に応じた内容と活動の提供」(24条−1)が求められています。つまり、学びの改革とは、学校教育の基本を教師中心から学習者中心へ転換することだと言われています。
上述の教育改革は基礎教育段階が主な対象となっていますが、同様の考え方はタイの高等教育関係者にも見られます。例えば、コンケン大学教育学部ではProcess orientedのモデルをベースにカリキュラムをデザインしようとしていると聞いたことがあります。このモデルのコンセプトを掻い摘んで言えば、
- 学習の主体は、学生(教員になる学生)。
- 成果よりは過程を重視する。
- 教育評価の方法としては「ポートフォリオ」のようなものに蓄積しつつ、形成的な評価を行う。
↓クリックすると簡単な説明があります。
現実にはこれを適用するにはまだ時間がかかるとのことでしたが…。
さて、コンケン大学教育学部では教員養成課程が4年制から5年制へと移行したのに伴い、2004年入学生(第1期生)より5年制カリキュラムを施行しています。そして5年めとなった昨年、全専攻でカリキュラムの見直しが行われ、今年入学した第6期生から改定版カリキュラムが適用されました。便宜上、前者をカリキュラム04、後者をカリキュラム09と呼ぶことにします。カリキュラム04では、5年間で一般科目30単位、教職科目50単位、専門科目74単位を取得することが卒業要件となっており、うち教職科目50単位についてはコンケン大学の教職科目 - 日本語教育情報局@コンケン.タイでご紹介したとおり*1。カリキュラム09でもその枠組みはだいたい変わらず、教職科目についてもいくつかの変更があったものの大きな変更はありませんでした。
そこで、以下は私が改定に関わったカリキュラム09の専門科目についてご紹介します。
と、その前に。専攻科目(カリキュラム09)の特色の一つが、日本語・日本事情科目とは別に、PCK(pedagogical content knowledge)育成のための科目が設けられていることです。PCKは教師の専門性について論じる際によく用いられる概念ですね。佐藤(1996)「教育方法学」*2ではLee S. Shulmanをひきながら「教師が保有している教育内容についての知識(content knowledge)を、児童・生徒の能力や背景の多様性に応じて教育学的に(pedagogically)強力で適切なかたちへと変容する」教師の能力 と定義しています。これ、日本人日本語教師の力量とも関連する概念ですよね。つまり、自分が持っている日本語についての知識を、学習者の能力や背景の多様性に応じてどのように変容させるか、という…。
さて、専攻科目は以下のような構成になっています。実際の科目名はタイ語なので少し妙な日本語です。括弧内は単位数。
1年生
- 現代日本語1・2(6)
- 日本語基礎コミュニケーション1・2(6)
- 日本語音声(3)
〔PCK科目〕-日本文化紹介(3)
2年生
- 現代日本語3・4(6)
- 日本語コミュニケーション1・2(6)
- 日本語読解作文1(3)
〔PCK科目〕-漢字教育(3)
3年生
- 教職日本語1・2(6)
- 日本語総合コミュニケーション1(3)
- 日本語読解作文2・3(6)
〔PCK科目〕-外国語としての日本語教育1(3)
4年生
- 学術日本語(3)
- 視聴覚メディアの日本語(3)
〔PCK科目〕
5年生(実際は教職科目ですが、ご参考まで)
学年が上がるごとに、重点が日本語から日本語教育へとシフトしていることがわかると思います。ところで、PCK科目が重要である一方、日本語科目における日々の学びも侮ってはいけません。と言うのも、自身が学んだ経験や記憶が意識的であれ、無意識のうちであれ、その人の教授活動を形作ることが多いからです。ですから、特に1年生や2年生の日本語科目ではそのことを意識した教室活動を展開しています。次回はそれについて一部ご紹介したいと思います。