シリーズ:コンケン大学教育学部日本語教育専攻の挑戦               −1.はじめに−

 コンケン大学教育学部日本語教育専攻ができて早や6年め。今年3月に第1期生が卒業し、6月には元気な第6期生が入学しました。今は第2期生が「日本語教育実習生」として各地の高校の教壇に立ち、第3期生〜第6期生が教育学部で毎日学んでいます。

 海外の日本語教育を考える時、その国の日本語教育を長きにわたって支えていく現地教員の重要性は言うまでもありません。現職教員に対するin service trainingはもちろんのこと、長い目で見れば、これからの日本語教育を担う教員養成が行われていくことも大切です。韓国、中国、アメリカ、インドネシアなどで日本語教育主専攻の大学があるようですが、その数は多くありません。日本語学習者数が世界第七位のタイでも2004年に開設されたのが初めてなのですから、まだまだこれからの分野と言えるでしょう。

 タイ初の「日本語教育主専攻」ということもあり、コンケン大学教育学部のこれまでの歩みは決して安泰な[,w200,h150,right]ものではありませんでした。しかし、毎年コンスタントに入学志願者があり、その中には高校で日本語を学んだ人も少なくありません。現在では合わせて約130名の学生が日々日本語教師になるための勉強をしています。この数を多いと見るか少ないと見るかはそれぞれだと思いますが、地道に「日本語教員養成」の事実を築いているところだと言えます。
                  ↑ワン・ワイクルー(教師を敬う日)に、教師の前に跪き、                      花と祈りを捧げる日本語教育主専攻の学生たち。

 さて、当然ながら「日本語」専攻と「日本語教育専攻」では、学修後の到達目標が違います。日本語教育専攻で養成するのは単に「日本語ができる」人材ではありません。加えて「良い教師となる」人材です。その違いは当然ながらカリキュラムやシラバスに反映されます。中川良雄(研究代表者)『「求められる日本語教員に日本語教員養成課程はどう応えるか」に関する総合的研究』*1では、各国の日本語教育主専攻のカリキュラムが紹介されています。興味がある方は、ぜひそちらをご覧ください。

 タイの場合、牧(2006)*2にもあるように「教育専門職水準」というものが示されており、タイにおける専門性を有した良い教師とはどのような人材かが明確に提示されています。ですから「日本語教師」の養成もまた、この指針に従う必要があります。一方、上記の専門職水準は「教師」一般について示されたものであり、「日本語教師」としてどのような専門性が求められるのか、それをどのように養成するべきかは示されていません。つまり、それについては現場の人間が、理論に裏付けられた地道な実践を積み重ねていくしかないようです。

 さて、前置きが長くなりました。私は今、縁あってこの日本語教育主専攻の現場にいます。着任して1年半、その間様々な実践に携わってきました。今後しばらくは「シリーズ:コンケン大学教育学部日本語教育専攻の挑戦」と題して、カリキュラム改定や授業実践例などについてご紹介したいと思います。よろしくお付き合いくださいませ。 

*1:平成18-20年度科学研究費補助金(基盤研究(B))研究成果報告書、京都外国語大学国語学部、58-81

*2:牧貴愛(2006)「タイ初等中等教員に求められる倫理の特質――他の専門職倫理規程との比較分析――」『広島大学大学院教育学研究科紀要第三部(教育人間科学関連領域)』第55号、105-113